先日、患者さんから「週刊誌を見て、フェブリクは危ないとわかったから絶対に飲みたくない!」とご意見をいただきました。
雑誌を確認し、フェブリクが危ないという情報がどれほど信頼できるのか、について調べましたので、ご報告します。

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問題の週刊誌は2018.6.7発売の週刊文春

該当の記述は、2018.6.7発売の週刊文春でした。
ベテラン臨床医が勧める「安くてよく効く薬」という記事の中で、アロプリノール(ザイロリックなど)と比較して、「新薬のフェブリクは心血管死亡リスクの増加が示唆されている。」との記載がありました。

アロプリノールは、安くてよく効く薬の1つとして挙げられており、それと比較してフェブリクへの批判が以下のように記載されていました。

今年に入って、この薬が古いアロプリノールに比べて、総死亡率や心血管死亡率が高いという臨床試験の結果がアメリカから発表され、日米で安全性についての勧告がでました。

週刊文春の情報の根拠は?

週刊文春の記事に書かれている内容の根拠は、アロプリノール(ザイロリックなど)とフェブリクの心血管系の副作用を比較した論文でした。
以下のURLから、論文の抄録へ飛ぶことができます。

https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1710895
White WB, Saag KG, Becker MA, et al. Cardiovascular safety of febuxostat or allopurinol in patients with gout. N Engl J Med. 2018;378(13):1200-10. doi:10.1056/NEJMoa1710895.

海外の主な規制機関・国際機関等から発信された医薬品に関わる安全性情報を収集・検討し、重要と考えられる情報を翻訳または要約している「NIHS 医薬品安全性情報」でも、この情報がまとめられています。
http://www.nihs.go.jp/dig/sireport/weekly16/03180208.pdf

論文の内容を端的にまとめると

・心血管系のイベントリスクの高い痛風患者を対象にアロプリノールとフェブキソスタットの比較を行った
・全死因死亡、心血管死亡の発生率でフェブキソスタットがアロプリノールよりも高い値を示した

ということです。

週刊文春の内容は、きちんとした根拠のあるものであったことが分かりました。
ですが、元の論文を読んで、誤解を招く可能性があると思う点があったので、整理していきたいと思います。

①フェブリクを使わなければ心血管系イベントは起こらないのか?

まず1つ目は、フェブリクを使わなければ心血管系イベントは起こらないのか?ということです。

フェブリクは、確かにアロプリノールに比べて、総死亡率、総心血管死亡率で高い値を示しました。
ですが、アロプリノールに変更したからと言って、心臓系の副作用がなくなるわけではありません。

実際、試験でも約3000人ずつの被験者のうち、フェブリクで335人に心臓イベント、アロプリノールで321人に起こっています。

記事内では、アロプリノールを使えば安全だが、フェブリクを使用した場合には心臓に危険であると思わせるような記載がされていますが、どちらを使用したとしても、心血管系のイベントが起こる可能性はあります。

②フェブリクはアロプリノールに比較して常に危険なのか?

2つ目は、フェブリクはアロプリノールに比較して常に危険なのか?ということです。

前述したとおり、試験では約3000人ずつの被験者のうち、フェブリクで335人に心臓イベント、アロプリノールで321人に起こっています。
痛風治療中の患者のうち、約10%もの方がイベントを起こしていることになります。

この理由は、試験に参加した患者さんのプロフィールから説明することができます。

試験に参加した患者さんは、痛風に加えて、以下のいずれかの既往を持つ心疾患系のイベントリスクが高い方
対象でした。
心筋梗塞、入院を要する不安定狭心症または一過性虚血発作、脳卒中、血管性の合併症をもつ糖尿病

心筋梗塞や脳卒中は、一度起こしてしまった後で再び発症する確率が高い疾患です。
ですので、合併症のない方では、考えられない頻度で心血管系のイベントが起こっています。

今回の試験から、心疾患系のイベントリスクが高い方では、アロプリノールの方が比較的安全であるという結果が出されています。
しかし、合併症のない方でも同じように、アロプリノールの方が比較的安全という結果が出るかはわかりません。

③そもそもこの論文は信頼に足りるのか?

今回の論文では、約6000名の方を対象に試験が行われたことが記載されていますが、その被験者の半分以上が中止となっています。
原因は分かりませんが、試験に参加した人のうち半分以上(56%)が途中で中止となっています。
臨床試験の同意はいつでも取り下げられるものですし、薬が合わなくて中止になることもあるかと思います。

それでも、中止になった割合が高すぎるのではないかと思います。
今回は、フェブリクとアロプリノールの間で有意差が出ていますが、データの検証方法によっては、有意差が出ない可能性もありそうです。

一連の情報を見て思ったこと

今回の記事では、2018.6.7発売の週刊文春中のフェブリクについての記述に関する根拠を調べました。

記事内では、アロプリノールの方がフェブリクよりも優れており、フェブリクは危険だという印象を与えるような記載がされていました。

根拠を調べてみると、確かにアメリカの試験において、フェブリクがアロプリノールに比較して、心血管系イベントの発生率が高かったことが分かりました。

それでも、前述したように疑問に思う点がいくつか残る結果であるため、すべての患者さんで、フェブリクは危ないから今すぐに絶対にやめた方が良い!とは思いません。

あえてフェブリクの優れている点を挙げてみると、尿酸を下げる力に着目すれば、アロプリノールよりも効果が高いです。
腎臓の悪い方でも使うことができます。

使い方もアロプリノールは1日2回なのに対し、フェブリクは1日1回です。
飲み忘れが多い方には便利かと思います。

どちらの薬にも優れている点、劣っている点があり、どちらの薬の方があっているのかは、その方次第でそれぞれ異なります。

月並みな表現ですが、安心して使えるように、ご自身の心血管リスクがどうなのか、主治医に相談することが大事です。

週刊誌の医療記事を目にして、毎回思うのは過激なタイトルで不安を必要以上に煽っているということです。
週刊誌では、見る人の興味をひくために誇張表現が用いられます。

週刊誌の目的は、薬を飲んでいる患者さんに注意喚起をすることではなく、多くの人の興味をひいて本を買ってもらうことです。

週刊誌と主治医とどちらを信じるのか、もう一度考えていただきたいと思います。

それでは、また!

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rina

rina

都内薬局に勤務する現役薬剤師。 勉強会や患者さんとの会話を学びの種にしてブログを運営。 現在、1年間の長期休暇をいただき、海外生活中。