先日、糖尿病の勉強会に出席してきました。
そこでの演題は、J-DOIT3という臨床試験の結果についてでした。

自分の復習を兼ねてエッセンスだけまとめたいと思います。

J-DOIT3は、公式のWebページも作成されており、その結果は誰でも見られるようになっています。

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J-DOIT3とは?

J-DOIT3とは、”Japan Diabetes Optimal Integrated Treatment study for 3 major risk factors of cardiovascular diseases”の略称で、糖尿病に伴う心血管疾患の発症に血糖値、血圧、コレステロールの3大リスクがどのようにかかわるかを調べた試験です。

2型糖尿病に加えて、高血圧、高脂血症の症状のある患者さんを、従来の治療と、目標とする検査値をより厳しいものにした強化療法とに割り振り、その後の合併症の発症の確率を比較しています。

2型糖尿病と診断された45-69歳でHbA1cが6.9%以上の人を対象としていました。
実際に参加した方の、平均年齢は59歳、平均HbA1cは8.0%だったようです。

従来治療と強化療法の検査値の目標は?

J-DOIT3の結果をまとめたPDFから、表を引用しました。

従来治療群 強化療法群
HbA1c <6.9% <6.2%
血圧 <130/80mmHg <120/75mmHg
LDLコレステロール <120mg/dL(*<100mg/dL) <80mg/dL(*<70mg/dL)
HDLコレステロール >40mg/dL >40mg/dL
中性脂肪 <150mg/dL <120mg/dL
BMI <24 <22

この目標で驚いたのは、BMI(体重コントロール)目標の高さについてです。
開始時の参加者の平均BMIが約25なので、身長170cmの人であれば、従来治療群で2.9㎏、強化療法群で8.6㎏の減量が目標となります。

糖尿病治療ガイドでは、まず現体重の5%減量を目指すことを提案しています。
慎重170㎝、BMI25の方であれば、3.5㎏が体重の5%に当たりますので、高い目標だと感じました。

ですが、体重を落として肥満が解消されれば、2型糖尿病は改善する病気ですので、もしこれが達成されるようであれば、薬が不要になるような方も出てくるのではないか、と大きな期待を感じました。

J-DOIT3の結果

腎症や網膜症といった細血管イベントは、強化療法群の方が優位に少なくなりました。

全体の死亡率は、強化療法群と従来治療群で有意差が出ませんでした。
有意差が出なかった理由については、いくつかの原因が考察されていましたので、以下に簡単にまとめます。

①従来治療群の成績が、海外の強化療法群を上回るような良いものであった
②両方の群で、脳卒中や心筋梗塞などのイベントが少なかった
③両方の群で、HbA1cやBMIなどが目標を達成しなかった
④死因の60%が血管イベントではなく、がんだった
⑤従来治療群よりも強化療法群で喫煙者が多かった

海外の比較試験の結果

海外でも同時期に同様の比較試験(ACCORD試験)が行われていましたが、強化療法群で従来治療群よりも悪い結果が出てしまったため、予定されていた期間終了の前に中止となりました。

これは、強化療法群で低血糖の症状がより多くでてしまったことによると考えられています。

高血糖は動脈硬化の原因となり、脳卒中や心筋梗塞などの合併症のリスクを挙げますが、血糖が低ければいいということではありません。
血糖が必要以上に下がりすぎてしまった低血糖状態の回数が増えると、血糖値が高いときと同様に脳卒中や心筋梗塞のリスクが上がることが報告されています。

海外研究における強化療法群では、血糖値のコントロールを厳密にするあまり、低血糖の副作用が従来治療群よりも頻発してしまったため、予後が悪くなってしまったものと思われます。

海外研究が行われていた当時は、SU剤やインスリン分泌促進薬など、低血糖を起こしやすい薬がメインで使われていました。
現在のように、DPP-4阻害薬やSGLT2阻害薬など低血糖のリスクが少ない薬の選択肢があれば、また異なった結果が出ていたかもしれません。

海外研究の中止を受けて、J-DOIT3も一時中断をして、強化療法群で死亡率が上がっていないか調査を行いました。
その結果、安全性が確認されたため、試験が再開となりました。

J-DOIT3では低血糖が少なかった

J-DOIT3の強化療法群では重症低血糖が少なかったため、大血管症や死亡を減らすことができたと考えられています。
試験開始当初から低血糖リスクの低い、メトホルミンやピオグリタゾンを積極的に使用し、DPP-4阻害薬が開発されてからは採用し、インスリンの使用者が少なかったことから、重症低血糖が少なく済んだと考えられています。

J-DOIT3は、目標を厳しく設定した強化療法群であっても、重症低血糖を頻回に起こさずにコントロールできることも証明していると思われます。

強化療法群ではQOLを下げなかった

J-DOIT3では、合併症の予後だけでなく、参加者のQOLに対する評価もしています。
寿命が延びたとしても、多くの制約に縛られて、楽しく幸せに過ごせない(QOLが下がっている)のであれば、最適な治療とは言えません。

強化療法群では、より高い目標を設定したことにより、目標摂取カロリーが低く、運動の機会を多く求められるなど、患者に課せられる制約が多くなっていました。
ですが、制約の厳しさとは反して、強化療法群の方が従来治療群よりもQOLが高いという結果になりました。

強化療法群では、検査値の改善がより大きくあらわれたことで、医療者からポジティブな声掛けをされた結果、患者のやる気や達成感がつよく刺激されたようです。
必ずしも厳しい生活をすることが、QOLを下げることに直結するわけではなく、医療者のかかわり方によってもQOLを高めることができるということが証明されたと思われます。

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rina

rina

都内薬局に勤務する現役薬剤師。 勉強会や患者さんとの会話を学びの種にしてブログを運営。 現在、1年間の長期休暇をいただき、海外生活中。